アンリ・ポアンカレというひとが、100年前に出した問題「ポアンカレ予想」に挑んだ数学者たちのお話です。
「ポアンカレ予想」という問題は、トポロジーという分野で、「宇宙の形」を問う問題なのですが、希央は、これは数学で扱える問題ではない、と思いました。
実際、100年目にようやく問題を解いたペレリマン博士というひとも、物理で使う熱方程式にヒントを得て、問題を解いたのです。
ペレリマン博士の偉い所は、宇宙の形の計算式の途中で「特異点」というものが出てきた時、「時間を後戻りさせても良い」というアイディアを盛り込んだ点を、希央は評価します。
ポアンカレ予想というのは大変な難問で、これまで多くの数学者が挑戦しましたが上手く行かず、とうとう賞金が出る事になりました。
ペレリマン博士の解答は4年かかって検証され、いよいよ数学の賞と賞金が貰える事になったのですが、驚いたことにペレリマン博士は故郷のロシアに引きこもって、きのこ採りをして世捨て人のような暮らしをしている、というので、世間は大騒ぎになりました。
希央にはペレリマン博士の気持ちがよく分かるのです。ペレリマン博士は、最初は純粋な興味で、問題に挑む事にしました。アメリカにいた時に解答のアイディアを思いついて、ロシアに帰ってから研究に打ち込む事にしました。そして、とうとう問題が解けた時、彼は深い孤独の淵に立たされたのです。
ペレリマン博士は、自分の出した答えを誰も理解することができないだろうと、知っていたのです。誰も、一人もいない世界に、彼は立っていました。世紀の難問を解けた、その喜びを分かち合える人が、どこにもいなかったのです。
彼は、世界の「のけもの」になってしまいました。
数学者という人達は、まるで数学の神様に一生を捧げた信者のように暮らしている人もいますが、そういうのは良くないです。数学の問題を解いて、「ヤッター!」くらいにしておかないといけません。数学は数学であって、それ以上の事は何もしてくれないからです。
ペレリマン博士が賞金と賞を辞退したのは、その為に問題を解いたのではない、という事を示したかったのだと思いますが、希央ならありがたくもらっておくのに、と思いました。
数学者は、数学の世界にこだわらず、もっと物理学やその他の分野と連携をとるべきだと思います。
最近、5次元宇宙を表す方程式が理論物理学上で証明されましたが、現在の人間の知性で証明できるのはここまでです。
本当の宇宙は、もっと多次元に存在しています。座標の示す、点の一つ一つが、宇宙の場所なのです。
ペレリマン博士が森に入っていったのは、良い事です。きっと、自然が彼を癒してくれると思います。